センジュ出版代表の吉満明子さんが
ご自身の来歴と
自社の歴史について綴った本、
『しずけさとユーモアを』を読んだ。
……と、書き出してみたものの、
ひどくもどかしい。
こんな一文では全然追いつかない。
背中すら見えない。
読みながら
「ぐらぐらぐらぐらぐら」と揺さぶられ、
途中からはもう
ページをめくる手を止められなかった
この身と心の在り様を
直に届ける方法があるのなら、
いっそ言葉など失っていいとさえ思う。
何となんと小さな世界しか、
この本には描かれていないことか。
しかし同時に、
その小さな世界を蔑ろにすれば、
人が生きることの意味など
あらかた失われてしまうという真実を
これほど確かな「こえ」で歌う本に、
一生の内、
いったい何冊出会えるというのか……
吉満さんは、
誰もが自分の人生の物語の
主役になれると「信じて」いる。
大仰で派手なだけの
スペクタクルは必要ない。
結局は自分を守るためでしかない、
偉そうな理屈の賢しらも。
そんなものはみな、
かえって邪魔になる。
名も無いどこかの誰かが、
ある時全人生を賭けて、
仲間たちの、
夫婦たちの、
家族たちの間に
本物の愛情を通わせた
ささやかな冒険譚を、
たどたどしくても構わない、
美文なんかじゃなくていい、
自分の言葉で
はっきりと語り出せば、
その人はもう自分の人生の主役だ。
固く信じられているのは、
どこかの誰かが
己の人生を生き切ることであり、
他の道筋とは置き換えようのない
唯一無二のその軌跡を、
自分の言葉で「肯定」することである。
この「信」の力と健全さを
その都度裏打ちするのは、
やはりこの世に二つとない
吉満さんご自身の生きざまと、
借り物ではない言葉で
応えてくれた
誰かの生きざまだけだ。
他に何が要るだろう。
だからこそ、
吉満さんが著者たちに、
あるいは彼女の「くらし」と
「はたらき」を通じて関わる
全ての人たちに贈る
「ありがとう」という言葉は、
彼女と、関わった誰かの、
それぞれ他のようには在り難い
二つの命を結ぶ
強い輝きを放つのだろう。
センジュ出版が
「本」という器に掬い取り、
私たちに届けてくれる物語は、
著者の命と読者の命を橋渡しする
虹になるのだろう。
書くにせよ読むにせよ、
自分の人生の主役になるための
言葉を見つけ出すには、
私たちは独りにならなくてはいけない。
他と離れ、
「しずけさ」に満たされた時間を
辛抱強く生きなくてはならない。
しかしその果てに、
もしも然るべき言葉が
見つけ出されたなら、
今度は私たちは互いに顔を合わせ
祝福し合っていい。
できることなら涙は堪え、笑顔で。
「ユーモア」と共に。
センジュ出版の
「しずけさとユーモア」という理念は、
独りを生き抜く勇気と、
本当はその先にしかやってこない
出会いの喜びを、
いつでも丸ごと肯定する。
センジュ出版の「本」は、
いつでもその勇気と喜びに賛成し、
肯くチャンスを与えてくれる。
まったく稀有なことではないだろうか。
吉満さん。
ありがとうございます。
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「暮らし」から「つながり」と「仕事」を作る実験室
暮らすLaboratory しかのいえ
公式サイト https://shikanoie.com