魔法みたいに

本の茶屋

昨日、有楽町の駅前の町中華で食べた何の変哲もないチャーハンが美味しかった、北区上十条しかのいえです。

今週のしかのいえ本の茶屋は……

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◆1/19(金)
店主出張につきワンオペになりますが13:00~16:00の営業です。
どうぞお越しを~。

◆1/20(土)
通常営業で13:00~16:00の店開きです。
お仕事に関するワクワクするような妄想、今週もしっかりおつき合いします。

◆1/21(日)
ワイガヤ&吉原先生を囲む会開催につき臨時休店です。
どうぞご注意ください。
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しかのいえ本の茶屋のご案内・アクセス

テレビ番組のエンディングで流れるある歌の断片が、だいぶ以前から気になって耳に残っていました。

それが最近、どいういうわけかフルで聴きたくてたまらなくなり、ネット検索をしてみたのです。

すぐにわかりました。

寺尾紗穂さんの「魔法みたいに」という曲でした。

通しで聴くのは初めて、寺尾さんのお名前も初めて知りました。

でもありがたいことに、これが実に素晴らしくて。

仕事をしながら、一息入れながら、繰り返しくりかえし聴き続けることに。

今週の月曜から火曜にかけて一気に読んでしまった、藤岡陽子さんの小説『晴れたらいいね』の主人公の女性が同じ「紗穂」という名だったことや、この小説のタイトルが歌の名でもあったことに、何か運命めいたものを感じてしまったのは、そういうわけだったのです。

これは感じすぎというものでしょうか。

光文社さんのホームページで、『晴れたらいいね』には次のような内容説明が付されています。

「……現代の看護師が、従軍看護婦に異動。2015年東京の総合病院から、1944年マニラの日赤救護班へ」

はい、まさにこの通りの大筋です。

読み始めて10ページも進まない内に、24歳の看護師「高橋紗穂」は、病室に居た95歳の元・日赤救護班の看護婦「雪野サエ」と入れ替わり太平洋戦争末期のマニラへ飛びます。

文庫版の解説には、このような展開に「荒唐無稽」の一語があてられていました。

語の底に、この作品が「異色の戦争小説=反戦小説」「戦地を舞台にした青春小説」として見事に成立していることに対する敬意と驚きを滲ませながら。

作中に立ち上がり動き回る看護婦さんたちの姿が、みんなすごく良いんです。

これはきっと作者の藤岡さんの、現役看護師としてのご経験の賜物でもあるのでしょう。

どれだけ持っていてもまだ足りないと、躊躇なくすべてを、命さえも奪おうとする戦争の世界。

そこに放り込まれた彼女たちは、敵味方の分け隔てなく「なにもない場所で、必死でなにかを差し出そうと」し続けます。

彼女たちの眩しい振舞いの根っこに藤岡さんが置いた、無神経に命を粗末にする者たちに対する炎のような憤り。

私はそれを読んで、激しく胸倉をつかまれ揺さぶられたような気がしました。

きっと「命を生み出し、命を育む」力そのものが、作中の看護婦さんたちのやせ細った体を通って電流のように私のところにやって来たからです。

思えばその力は、作品の冒頭から、高橋紗穂の腕を掴んだ雪野サエの手にも漲っていたはずです。

この小説が、藤岡さんならではの、無二の創作であることは言うまでもありません。

しかし、出来上がった小説を通じて私のところにやって来たこの力は、藤岡さんの創作ではありません。

藤岡さんも『晴れたらいいね』を執筆しながら、やって来た同じ力に強く打たれていたに違いない。

作者が持てる想像力を最後の一滴まで絞り尽くして届けてくれたこの力のリアリティが、タイムスリップという一見すると荒唐無稽な設定を、およそ荒唐無稽でないものに引っ張り上げている。

魔法みたいに。

そして、今世界中で行われている悲しすぎる戦闘の現場でも、その力の名も無き担い手たちが、黙々と懸命の仕事を続けていることでしょう。

私はそう信じます。

写真は単行本版『晴れたらいいね』のカバー。

描かれた看護婦さんの目線と表情が、この作品にいかにも相応しいです。

今読むべき、すごい小説。

掛け値なしにお薦めします。

では、では。

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「暮らし」から「つながり」と「仕事」を作る実験室
暮らすLaboratory しかのいえ
公式サイト https://shikanoie.com

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