今から30年くらい前の話。
リコーダーを吹き始めた私の、中野の6畳一間の下宿には譜面台がありませんでした。
十条の実家には管楽器を演奏する人はいなかったし、私はと言えば、手に入れたばかりの楽器に触れて息を吹き込むことに夢中になり過ぎていて、譜面台なんて思いつきもしませんでした。
見かねた年上の友人が譜面台をプレゼントしてくれた時、決して大げさではなく天地が引っくり返ったような気持ちになりました。
「吹きやすい!」
って、当たり前ですよね、それまで畳やらちゃぶ台やらの上に楽譜をじか置きして、背中を窮屈に丸めながら1年以上吹き続けていたのですから。
今思えば譜面台は、楽譜だけではなくて、音楽を続けようという私の気持ちも、目の前で文句ひとつ言わずにずっと支えてくれていました。
つい最近のこと、生れて初めて私のところに来てくれたその譜面台のネジが擦り減って、楽譜を支える台の部分が立ち上がらなくなってしまった時、私の首も同じような角度で折れ曲がったまましばらく元に戻らなかったのは、きっとそのせいでしょう。
ネジの交換という、アタマが多少回る人間ならすぐにでもたどり着けそうなアイデアに自分で思い当たるまでの約1ヵ月。
顔にこそ出しませんでしたが、かなり凹んでいたのは事実です。
おかえりなさい、初代譜面台さん。
私も初心に戻って精進します。
これからもどうぞよろしくお願いいたします。
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