音楽のバトン

リコーダー教室

そういえば昨日は、コロナの感染者数についてまったく考えていなかった。

ふとした瞬間に、そんなふうに思うことが最近時々あります。

電車に乗って、

(あ、マスク持ってくるの忘れた……)

となった後で、まあいいかというようなことも、時々。

2020年4月7日、火曜日。

新型ウイルスまん延の脅威を受けて、日本政府は緊急事態宣言を発出しました。

当時、スタートしたばかりのしかのいえは、以来、先の見えない開店休業状態を強いられることになりました。

同時に政府のその宣言は、私が長年親しんできたリコーダーという楽器との関わりをも一変させるものでした。

リコーダーにとって「合奏」は、決して失ってはならない友です。

他の誰かと音を合わせることによって他を生かし、自分も生かされる。

そんなふうに実感することが、本当に多い楽器なのです。

不気味なウイルスは、リコーダーからその無二の友をあっさりと奪っていきました。

あっけに取られて、こちらが一瞬怒るのを忘れるほど唐突に。

家族以外の者とはほとんどまともに顔を合わせない日々を通じて、リコーダーを吹く私はまるで主を失った影法師同然でした。

あれから4年。

私の手元に3つの動画と3つの音源が残りました。

お世話になっている中川つよし先生の教室で開催している、「リコーダー独奏の会」での私の演奏の記録です。

映像と、もともと映像に付属していたものよりクリアで臨場感のある音を縒り合わせた動画を観て、聴いて、はっきりとわかりました。

あの目に見えない忌々しい威力にも、リコーダーから完全には友を奪えなかったことが。

この笛は、ちっぽけな独りの人間の熱とひとつになって、他の楽器と、他の人間と繋がることを決して諦めていなかった。

気が遠くなるほど遠い過去から綿々と続いてきた音楽の命脈を、実に細々とではあるけれど繋ぎ止めていた。

この4年間で、取り返しのつかないほど損なわれてしまった、音楽にまつわるものごとはたくさんあります。

残念でなりません。

でも私たちは、悔やんでも悔やみ切れないその事実から逃れられないし、そこからまた始めるしかありません。

私の拙い技が、コントロールを失って無様に揺れる内面が、他によって支えられ生かされて、音楽のバトンを未来に辛うじてつないでいこうとする現場の様子をここに置きます。

■2020年11月23日■
二コラ・シェドヴィーユ:「忠実な羊飼い」第6番

■2022年03月06日■
アルカンジェロ・コレッリ:ラ・フォリア

■2024年03月31日■
イグナツィオ・ジーバー:ソナタト短調 第2番

上記3曲の再生リスト

音楽に真っすぐ関わろうとしているすべての人に、謹んでこの動画を捧げます。

(※写真は、2020年11月23日の演奏後に家族からもらった花です。)

「暮らし」から「つながり」と「仕事」を作る実験室
暮らすLaboratory しかのいえ
公式サイト https://shikanoie.com

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